こんにちは、primeNumberです。
12月12日、primeNumberの目黒オフィスにて、イベント「AI Media Night 最前線のメディアが語る2025年のAIとこれから」を開催しました。
このイベントは、いまや仕事だけでなく日常でも欠かせない存在となりつつあるAIについて、最先端の情報を追いかけているメディアをお招きし、2025年のAIを振り返るとともに今後のAIの動向について語っていただくもの。
登壇者として2017年から運営する老舗AIメディア「Ledge.ai」、エンドユーザー向けにAI情報を発信する「テクノエッジ」、B2B向けに半導体からアプリケーションまで幅広いレイヤーで情報を発信する「マイナビ TECH+」、テクノロジーを使う人や組織、文化といった側面にフォーカスする「データのじかん」の4媒体にお集まりいただき、それぞれの視点からAIについて語っていただきました。

同イベントの内容はprimeNumberのポッドキャスト「素数ラジオ」でも配信しています。こちらもあわせてお聴きください。
- 2025年のAIトピックは「AIと人との関係性」
- 倫理やフィジカルAI、電力不足、半導体高騰が今後の注目トピック
- AIへの過度な依存や人間の退化、AIによる格差社会……、今後懸念するAIの悪影響
- 人に近づくAIへ織り交ざる期待と不安。2026年もAIの動向に注目
2025年のAIトピックは「AIと人との関係性」
最初のテーマは「2025年を振り返って思い出深いAI関連のトピック」。各媒体の回答からいくつかをピックアップし、登壇者が詳細を深掘りする方式で進行しました。

データのじかんの野島さんが挙げたのは、「Zero Slop Zone」。「Slop」とは情報の洪水を意味し、AIによって質の低い情報が垂れ流されている現状に対して、Anthropicが「Keep thinking(考えることを続けろ)」というコンセプトで実施したものです。このキャンペーンで開催されたカフェではスマホやパソコンが禁止され、使えるのはペンとノートだけという制約が設けられていたそうです。
野島さんは「AIは本質的に人間を助けるもので、AIによって人間の考える活動を退化させるものではないというアンチテーゼ」とキャンペーンの意図を説明。日本でも来年頃にキャンペーンが行われるのでは、との可能性を示した上で、「現状の我々のAIに捉えられる懸念点というのを一つ対応した施策」と評価しました。

これに続ける形でマイナビ TECH+の小林さんが「AIと結婚した」というニュースを紹介。「現実の人間と付き合うよりもAIと付き合った方が自分を包み込んでくれる」という理由でAIと結婚を選ぶ人が現れたことにAIの進化を実感したと共感を示した一方で、「AI側は感情を理解しているわけではなく、データとして理解しているだけ」と指摘し、AIにどこまで委ねるかという線引きが必要になってくると語りました。
Ledge.aiの武石さんは、自身が挙げた「#keep4o運動」について説明。「#keep4o運動」は、OpenAIの生成AIが「GPT-4o」から「GPT-5」へ移行した際にAIの受け答えが大きく変わったことが話題になり、一部のユーザーが4oへの回帰を求めた運動です。武石氏は「性能を求めるというよりは、AIに人格を求め出すという運動が非常に興味深かった」との感想を述べました。
武石さんは、GoogleのAIツール「NotebookLM」の進化も印象的だったとコメント。取材音源から記事の初稿を起こす作業にかかるコストが大幅に削減され、スピードと精度が飛躍的に向上したとのことです。「業務で使える幅、領域が広がった」と実感を語り、まだ触ったことがない方にもぜひ試してほしいと勧めました。
テクノエッジの松尾さんは、13年前に亡くなった妻の姿や歌、声をAIで再現するご自身の取り組みを紹介しました。昨年あたりからテレビで取り上げられることもあったそうですが、今年になってからの進化は目覚ましいと評価、現在は、AIアバターという姿と、学習したLLMを介して本人らしいアバターと対話をするところまで実現できるようになっており、ある企業と共同開発を進めているとのこと。「AIアバターと結婚するとか、AIがどんどん進化していくところに来ている」と期待を寄せました。
イベントでは、登壇者に現時点で一番使っているAIについて1つを挙げてもらいました。
4名とも共通して挙げたのがGoogleの「Gemini」で、「スマホと親和性が高く普段の生活に入り込めている」(小林さん)といった評価が集まりました。松尾さんはChatGPTを搭載したブラウザ「ChatGPT Atlas」も紹介、「常にChatGPTと対話しながら記事を書いたりNotebookLMを利用できるのが便利」との便利さをアピールしました。
倫理やフィジカルAI、電力不足、半導体高騰が今後の注目トピック
2つ目のトピックは「今後注目のAIトレンド」。データのじかんの野島さんは「CPO」というキーワードを挙げました。これは「Chief Philosophy Officer」の頭文字を取った「AI時代の哲学責任者」という意味で、AI時代には技術的課題や論理構成では解決できない問題が増えており、技術的側面以外の観点で企業の指針になるような立場の重要性が高まっている、と解説しました。

この話題に続けてテクノエッジの松尾さんは、特撮番組「人造人間キカイダー」の良心回路やアシモフのロボット三原則、鉄腕アトムのロボット法などを引き合いに出し、「今のAIには倫理的な規制が欠けている部分がある」と指摘。倫理は国や宗教などさまざまな要因が絡むため、一筋縄ではいかないとし、「僕はできるだけ規制はない方がいいなという立場」と述べ、野島さんも「倫理については多面的な見え方が必要だ」と共感を示しました。
Ledge.aiの武石さんは、「ロボティックス領域での基盤モデルの進化」を挙げました。現在の生成AIはブラウザに閉じた領域が中心ですが、今後はリアルな空間で、どれだけ人間の現実世界のタスクを効率化・自動化してくれるかに進んでいくとの期待を示し、「Googleもロボット領域での基盤モデルを出したり、最近だとチューリングさんが東京都内を自動運転で走る映像を公開している」との実例を紹介しました。
フィジカルAIについてマイナビ TECH+の小林さんは、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが言及して一気に火がつき、Jetson Thorというフィジカル向けの組み込みAIボードを出すなど準備を進めていると紹介。日本では人手不足という問題があるため、ロボットで代替させる動きが地方中心に加速しているとの実情も紹介しました。
一方で日本では人型のロボットよりも自動運転やドローン、協働ロボットなどがフィジカルAIとして捉えられていると小林さんは指摘。「人型にはあまり汎用性がなく使い勝手が悪い。日本は現実の方に振っているので、フィジカルAIはすごく受け入れられる」と分析し、その最も分かりやすいフィジカルAIの例として「ファミレスの猫の配膳ロボット」を挙げました。
続けて小林さんは自身が挙げた「電力不足と半導体メモリの価格上昇」について言及。最近ではAIの性能が消費電力の単位で語られるようになり、その単位がギガワットと桁違いになっているとの状況を踏まえ、「これからは産業と一般で電力の奪い合いが始まる」と警告。「AIバブル崩壊がいつ来るのかという話があるが、電力が足りなくなって崩壊するというリスクがある」と補足しました。
さらに半導体メモリの価格が上昇している点についても言及。AI需要によってパソコンやサーバーはもちろんスマートフォンやゲーム機など全てのメモリ製品に影響が出ており、半導体全般が値上がりしています。小林さんは「価格が高くてもAIデータセンターが買うから価格が上がるが、価格高騰で半導体を買わなくなって崩壊する、というリスクもある」と、AIバブル崩壊が電力消費だけでなく、半導体の価格高騰で起きる可能性を示しました。
AIへの過度な依存や人間の退化、AIによる格差社会……、今後懸念するAIの悪影響
3つ目のテーマは「懸念しているAIの悪影響」。テクノエッジの松尾さんは、AIサブスクやAIマシンの有無による格差社会の到来を懸念材料として挙げ、「一番いいAIのモデルを使える人や企業が最良の結果が得られる。また、企業がクラウド依存せずインハウスでAIを活用したいとなるとさらにお金がかかる」と指摘、こうしたAI利用によって格差社会がこれから生まれてくるだろうと指摘しました。

ちなみに松尾さん自身は、AIサブスクに月20万円近く課金しており、「年金を全部そこに費やしている」とのことです。

Ledge.aiの武石さんは、LLMがSNSなどの質の低いデータを学習していくと、LLM自体も劣化していくという「Brain Rot(脳腐敗)」という説を紹介。「SNSばかり見ていてはいけないという人間の話がLLMにも言える」と補足した一方、「AIが学習するデータが今後枯渇していく中でどうするか」との課題も示しました。
テクノエッジの松尾さんが「最近新しいデータを取るところがなくなってきているが、その次の手段として人間にそのデータを作らせる動きがある」と指摘。マイナビ TECH+の小林さんも、海外ではライターがAIに教育させるための文章を書くために報酬を得る職業ができているという事例を紹介し、「自分で自分の首を絞めるけれどお金のためにはそれをやる。日本でもすでにそういう動きがあると聞いている」と補足しました。
人に近づくAIへ織り交ざる期待と不安。2026年もAIの動向に注目
イベントの最後は、AIの未来や今後の期待について登壇者がそれぞれ語りました。

テクノエッジの松尾さんは、自身も取り組んでいるプライベートAIアバターとして亡くなった妻のAIアバターを作るプロジェクトを紹介、「自分にとっては個人的なものではあるが、これからは皆さん必要とされるんじゃないか」と述べました。イベントでは松尾さんが以前に取り組んだ、亡くなった父の写真をAIでカラー化して動画にするという記事も紹介されました。
松尾さんはプライベートAIアバターの重要な要素としてChatGPTの「Pulse」という機能も紹介。過去の対話履歴をすべて記憶しておき、次に必要とすることを提案してくれるそうです。
「Pulseが1日に3個から5個ぐらい提案してくるが、かなり的確」と松尾さんは説明。「これはGoogleが数年前に言っていたプロアクティブなアンビエントコンピューティングのAIを使った完成形なんじゃないか」と高く評価した上で、「個人と密接に関係を持った、完全信頼できるパーソナルなアバターを必要とする未来が来るのでは」との予測を示しつつ、「(AIに恋をする映画)Herのよう、AIに恋愛感情を抱くということもあるかもしれない」と付け加えました。
マイナビ TECH+の小林さんは、フィジカルAIの今後について「日本人が期待しているのはドラえもんだろう」とコメント。「人間に言われると腹立たしいことも、AIに言われると腹立たしくないという研究結果がある。キャラクタライゼーションしたものが導いてくれるというのは今後出てくるのでは」との展望を示した上で、「日本のエンタメ業界はキャラクタライズビジネスが強いため、日本人が好むようなキャラクターをしたAIバディが生まれてくる」と語りました。
データのじかんの野島さんもフィジカルAIについて言及しつつ、人型ロボットの可能性について「世の中のUIは人間に合わせたUIになっており、ロボットも人型になることで人間の生活のインターフェイスとして使える」との可能性を指摘。
さらに野島さんは、東京大学の学生が、経済学の勉強をしていないにもかかわらずAIと対話して最先端の研究論文を書きあげ、それを受け取った教授が「頼もしいと思うと同時に恐怖心を感じた」と記した記事を紹介。「これが今我々が接しているAIに対する視点で、頼もしいところもあるし、なんか怖いなというところもあるが、これが普通になったときに専門知の優位性って何なのかは常々考えていきたい」と語りました。
Ledge.aiの武石さんは「完全自律型AIエージェント」を挙げ、「2025年はAIエージェント元年とは言われつつも、最小目的を与えたら最後まで遂行してくれる存在にはたどり着けていない」と分析。「完全自律型AIエージェントはどこまでいくのかは注目したい」との期待を示した上で、「本当にHerみたいな世界観で恋に落ちたり、ドラえもんのような存在がいずれは出てくるのでは、というところに期待を寄せながら2026年のニュースをウォッチしていきたい」と語りました。
イベントを通じて、AIがどこまで人間に近づいていくのか、AIを使って人間は何をすべきか、AIによって今までなかったことができるようになるという新しい価値をどう見出すかなど、様々な議論が交わされました。AIの進化による影響が期待も不安も織り交ざる中、基本的にはAIにこれから期待していきたいという前向きな姿勢が印象的なイベントとなりました。
改めてご登壇のメディアのみなさま、イベントにご参加いただいた方々ありがとうございました。