AI時代の営業は「情報提供」から「意思決定支援」へ。人とデータとセールステックの未来を考える(DATA SUMMIT 2025講演レポート)

こんにちは、primeNumberです。

11月26日に開催した自社カンファレンス「primeNumber DATA SUMMIT 2025」で、primeNumber 取締役執行役員COOの下坂悟が登壇。PIVOT株式会社 代表取締役/CEOの佐々木紀彦さんをモデレーターに迎え、TORiX株式会社の代表取締役で「営業の科学」の著者である高橋浩一さんとともに、AI時代に求められる営業スキルとデータドリブンな組織変革について語りました。

営業のスキルは「課題解決の道筋を立てて顧客のビジネスを前に進める力」

セッションの冒頭、モデレーターを務めるPIVOTの佐々木さんから「営業に求められるスキルとは何か」という問いが投げかけられました。

下坂は「営業のスキルは本質的に1つに集約される」と前置きした上で、「課題解決の道筋を組み立て、迷わず顧客のビジネスを前に進める力」が重要だと指摘。会社全体、部署、担当者という異なるレイヤーを踏まえた上で、「利害が交わる『現実的な落としどころ』を設計することが求められる」と説明しました。

この説明に高橋氏は共感を示した上で「お客様の会社の中でも、経営側と現場、購買側と営業側など立場によってギャップがある」「ギャップを埋めるために『うちの商品はいいですよ』と進めるだけでは結果が出ないので、どのように橋渡しするかがすごく重要」と語りました。

営業パーソン調査で判明したハイパフォーマーの武器は「事前調査」の注力

続いて高橋さんは、5003人の営業パーソンに対して実施したスキル調査の結果を紹介しました。この調査において、営業に求められる力を「質問力」「価値訴求力」「提案ロジック構築力」「提案行動力」の4つに定義し、目標達成度を5段階に分けてハイパフォーマーとローパフォーマーの傾向を分析したところ、興味深い違いが浮かび上がったと言います。

「ハイパフォーマーは事前準備をものすごく意識しているが、ローパフォーマーは丁寧に耳を傾けるとか相手に共感するといった、愚直に丁寧にがんばる人が増えてくる」と高橋さんは説明。「私が現場を見ている感覚からすると、一生懸命やっているのにそれが噛み合っていないという、非常に手ごわい問題」との考えを示しました。

モデレーターの佐々木さんが「ローパフォーマーは、丁寧にお客様の発言に耳を傾けるいい人ではないのか」と指摘すると、高橋さんは「丁寧に聞くのはハイパフォーマーも同様だが、ローパフォーマーの場合はそこに集中していて、他の武器が極端に少ない」との違いを指摘。下坂も「よく準備が8割と言うが、それが本当にこのアンケートに表れている」と感想を述べました。

高橋さんはさらに、ハイパフォーマーとローパフォーマーの準備の質の違いについても言及しました。「ローパフォーマーが『今日の商談のゴールは何か』を考えて準備したとしても、商談は思い通りにはうまくいかないもの。お客様から『他社さんから半額ぐらいで提示されているんだけど』って言われたら、準備していなくてパニックになってしまう」。

一方、ハイパフォーマーは「お客様から言われたくないセリフとか、これを言われたら困るなということを考えて準備していく」との違いを高橋さんは指摘。下坂も「いくつかのシナリオを準備しておいて、そこに対してどういった打ち手をとるかというイメージ」と応えました。

AI時代に直面する「思考力の低下」という課題

セッションの中盤では、AI時代における営業の課題がテーマとして取り上げられました。

下坂は「マネージャーから聞くのが『ChatGPTをよく使うようになって、部下が答えられなくなった』という声」と切り出し、「準備をするスピードはChatGPTやAIで速くなったが、そこに対しての背景や根拠を答えられず、思考力がものすごく低下した」との課題を示しました。

さらに下坂は「AIは一般論で全部返してくるため、顧客や案件に関係ない内容を生成する」と指摘。高橋さんも「AIをそのまま使うようになってしまった若手の育成をどうするかは、特にスタートアップで深刻化している」と共感を示しました。

モデレーターの佐々木さんが「AIによってエンジニアはエントリーレベルの需要が減るという話があるが、営業も同じなのか」という質問すると、高橋さんは営業の特殊性について回答。「同じ商品を買う場合も、気持ちよく買いたい、この人から買ってあげたいという感情が発生する。営業はそういった属人的な要素が浮かび上がって比べられやすいという側面があるのでは」と指摘しました。

「情報提供型」から「意思決定支援型」へ営業の重心が移動

こうした課題を踏まえた上で、下坂はAI時代における営業の変化について「価値の再定義」「思考プロセス」「プロセス駆動」という3つの変化を資料で紹介。「今まで営業が行っていた商品説明や情報提供がすべてAIでまかなえる時代になってくると、営業スタイルの重心はお客さまの本質的な課題に対してどう成功へと導いていくかという方に大きく動く」と解説しました。

高橋さんもこの変化について「全体的に抽象度が上がっていて、お客様の目的は何かを考えられない営業だと、『AIのレコメンドで自動的に買うから(営業は)もういりません』と断られてしまう」と、AI時代における営業の難しさを指摘。

また、TORiXが実施した営業担当者とお客さまとの関係値に関する調査を紹介し、「動きのスピードと質」が関係構築の上位に来ていると高橋さんは指摘。「スピードと質はAIと親和性が高い」との考えを示しつつ、「人を感じさせつつも、AIの恩恵を生産性に反映させて、ナチュラルな会話に所々にじませる。それはコミュニケーションスキル的にとても高度なスキルだ」と語りました。

データドリブンな営業組織で再現性と個性を両立

MCの佐々木さんが「AI時代は組織的な取り組みが必要だ」とコメントすると、下坂はデータドリブンな営業組織について説明。データドリブンな営業組織を「成功パターンをデータで把握し、再現性のある営業活動を行う組織」と定義した上で、「勝ち筋をデータで説明・標準化」「数値悪化の兆しを検知して対応」「データと文脈を統合した意思決定」「仕組みで成果を出す」という4つの要素をサイクルすることで、勝ち筋の再現性や先手を取った問題解決、意思決定の高速化が可能になるというメリットを挙げました。

高橋さんは再現性に対して「多くの企業幹部は再現性を求める一方で、人がやるものなので個性や良さをどう許容するかも課題」と指摘。「メールの書き方1つでもハイパフォーマーを真似すれば皆同じになってしまう。AIという道具を手段として使いつつもその人の個性を発揮させるという両方を実現するのは非常に難しい」との課題意識を示しました。

この課題に対する解決策を、高橋さんは「型」という言葉を使って説明。「多くの企業は型というとマニュアル的なものをイメージするかもしれないが、私は『最低限の基準』と定義している」とし、「最低限のことができない人は道具の力を使って早く一定レベルに到達でき、その基準を超えた人は、その人本来の良さや強みを発揮できる」と続け、「AIはこの基準やハードルを超えさせる手段としての使い道もある」と語りました。

さらに高橋さんはデータドリブンな営業組織として「ラグビーボール型」という考え方を披露。「やると決めたこと」と「業績」の相関が出ている状態を理想形としつつ、「再現性のための仕組みと、人の個性を生かすのと、両方が必要」と語りました。

下坂はデータドリブン組織を進めるための注意点として「データを集めるといろんな数字を見たくなる。これが一番の失敗要因」と指摘。3つのポイントとして、「行動が変わる指標に絞る」「全員が同じデータを見る」「勝ち筋を型化して運用」を挙げました。

定量と定性で商談を分析、「勝てる組織」へ変革する「primeSalesAgent」

こうしたデータドリブンな組織を実現するためのツールとして、下坂はDATA SUMMIT当日にリリースした「primeSalesAgent」を紹介しました。primeSalesAgentは、商談全てを分析して一人一人に的確なフィードバックを提供することで、優秀なセールス1人に依存する組織ではなく、セールス全体を「勝てる組織」へと変革するためのソリューションです。

具体的な機能としては、商談の総合スコアや分析項目の評価レーダーチャート、状況と目標のギャップ分析、これらから得られる推奨アクションを提供するほか、セールスの育成機能として、強み・弱みの評価、スキル開発の推奨事項も備えています。

営業の未来は「お客さまと一緒に考える」人ならではの部分が重要

最後のテーマとして、下坂は、AI時代に営業が求められる3つの変化を整理。情報提供から意思決定の支援者へ、属人性を脱却して再現性のあるプロセス駆動へ、資料作成などのアウトプット業務から質問力や仮説力といった上流の思考スキルへといった真価が必要だと語りました。

高橋さんは「どんなに便利な手段があっても、お客様のことを深く理解する、お客様と一緒に考えるという人ならではの部分はすごく大事。AIによる『代替』とか『淘汰』は物騒で、『AIと仲良くしていく』という表現が好き」との考えを示し、「営業は人に関する繊細さや感性といったアートな部分と、データやロジックと、両方扱う必要があるという、知的創造活動という意味でものすごくチャレンジで面白い仕事」と営業の魅力を語りました。

締めくくりとして、「AI時代に適用する営業に何をすべきか」という質問がモデレーターの佐々木さんから投げかけられると、高橋さんは「便利な武器を使いこなして成果を出すという強さと、その人なりの感性といった優しさをバランスすることが大事」、下坂は「自分の強みは何なのかを振り返ること」と、それぞれメッセージを送りました。

本セッションはPivotのYouTubeチャンネルでも公開されています。興味を持った方はぜひセッション本編もご覧ください。

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